母のパーキンソン病が進んだ。実家に戻った時に、母の主治医である東北大学神経内科の長谷川隆文先生のZoom講演を両親と一緒に拝聴した。専門外の者にもパーキンソン病の全体がよくわかるご講演だった。その中で2点、心に残ったことを書きたい。記憶を頼りに記載しているので、誤っている点があればご容赦いただきたい。
1. パーキンソン病に見られる異常タンパクにはプリオン様の性質がある
パーキンソン病の患者の脳細胞には、「α-シヌクレイン」という健常な脳内にも存在するタンパク質が、「アミロイド線維」と呼ばれる異常な線維状態となって蓄積しているのはよく知られている。実は、脳での蓄積の前から、腸管の末梢神経で蓄積が確認されており、腸で発生したこの異常タンパク質が迷走神経を介して脳へと徐々に移動していき、パーキンソン病を発症させるという仮説がある。つまり、末梢神経に生じた異常α-シヌクレインがプリオンとして伝搬して、脳に到達して発症する、というのである。プリオンは2001年の狂牛病騒ぎで広く知られた「感染性タンパク質」であり、パーキンソン病が実はプリオン病かもしれない、というのは驚きだった。後で調べたところ、植物にもプリオンに似た働きを持つ分子があるらしい。プリオンはこれまでに知られていない生命現象を解明するカギになるかもしれないと改めて感じた。
2. アドルフヒトラーはパーキンソン病でありその治療法が違っていれば歴史が違っていたかもしれない
アドルフヒトラーは晩年、パーキンソン病を患っており、特有の手の震えを写した映像が残っている。ヒトラーの主治医は治療のためコカイン、アンフェタミン、ベラドンナアルカロイドを注射投与していた。これらの薬物を投与されていれば、精神に異常をきたすのも当然であり、ヒトラーのパーソナリティと考えられてきたことが実はこれら薬剤作用だったかもしれない。長谷川先生は、このことを、「医師が一人の患者に向き合う大事さ(時には歴史を変えることにもなる)」として学生さんに伝えているとのこと。私も「教員一人が学生に向き合う大事さ」と言い換えて心に刻みたい。